それは友人の1本の電話からはじまった。
「母がひとりで住む家の設計を頼まれて欲しいんだけどね・・」
彼女の母は連れ添いが亡くなってから一人暮らしをしていたが、長男のところに引き取られていったはずだった。
おおよその事情は聞かなくてもなんとなくわかったので、あまり深く聴くことはしなかった。
更地になった土地は高校時代によく遊びに行った場所だった。
もちろん彼女の母もその頃からよく知っていた。
それほど大きくない土地なので、ひとり暮らしの家を建てるのにはちょうどよい大きさだった。
何日かをかけて基本プランを描いた。
われながら、上出来だと思った。
それというのも、西側が道路、東側が貸し駐車場、南側は空き地、北側が隣家なので、小さい土地だったが、設計もさほど難易度は高くなかった。
意気揚々に、図面を母とその兄弟全員に渡した。
帰ってきた答えに愕然とした。
「前の家と同じ間取りにして欲しいと母が言っている・・・」
「ちょ・ちょっと待ってくれ~前の間取りがわからん、というか忘れた~」
以前は道路に面してお店を営んでいたし、南側にも隣家がびっちり建てこんでいたので、その間取りと一緒といわれても、にわかに納得がいかなかったからだ。
「東にキッチンで南にトイレと風呂だったかな・・・」
「まじで~大きく空き地に面した南側にトイレと風呂と言われても、設計士としては承服しがたいのじゃ~」
「まぁ、母の言うとおりにしてあげて・・」
うううううううううううううううううう
困った・・・・・・・・・・・・
「あのさ~前と全く同じではなくてさ~ちょっとは変えるけどイイ?」
もうすでにワタシの脳裏には、ちょっとどころか、かなり変えようと思っていたが、遠慮がちにこういってみた。
「うん、まかせるよ!」
人生いろいろ、男もいろいろ、女だっていろいろ・・・そして住まいだっていろいろ・・・なのか・・・・